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十五夜

一昨日夜中に喉が渇いて目が覚めてキッチンに行ったら、電気を点けなくてもいいくらいに天井の明り取りから月光が、歩く私の影も出来るほど明るく入っていて、大きな満月が見えました。今年2020年は、101日が中秋の名月だったのですね。

 

日本では、三日月は立っているものだとずっと思っていたのですが、緯度の高いスペインで見る三日月は横倒しで、それに、長くて鎌のようでした。満月も、晴れていると日本よりもずっと大きく、ずっと強い光を放っているように見え、また街灯や人工の光が何もないところだと、月明かりだけで影が出来ることも、スペインで初めて知りました。それ以来、日本では空を見上げて月を見ることなど殆どなかったのに、どこに住んでも旅先でも、夜外に出るといつも、空を見て月を探して月を追うようになりました。そして世界のどこにいても、月は同じなことを確認して、何となく安心感を得ていました。

 

カトリックの国では、聖週間(イースター)はクリスマスに次いで重要な祝日です。聖週間は、毎年春分の日の後の、最初の満月の次の日曜日なので、毎年日にちは変わりますが、聖週間中の月はほぼ満月です。グラナダに住んでいた時に、その聖週間に友人とセビリヤ方面に車で旅行したことがあります。

内陸のグラナダから南に直進して海辺の街に出て、そこから海沿いに行くのが一般的な行き方なのですが、その時は内陸部のグラサレマ山脈沿いの道をとることにしました。ところがそのルートで行くのは初めてだったので途中で道に迷い、まだ山道を走っているうちに、暗くなってしまいました。山道は主要なルートではないので細く険しく、他に走っている車は全くありません。村も人家も殆どないので街灯などあるはずもなく、車のライトが禿山を照らすだけです。その頃はグーグルマップなんてなかったので、この道をいけばどの村に出るのかも全くわからないままに、運転を続けました。

 

夜もふけてきた頃、すぐ近くに切り立った山の頂上が見えていたのですが、その山の向こうがやけに明るいのに気が付きました。まるでゴルフ練習場の照明のようで、この山を越えると都会があるのかと思った程です。山道はカーブに入り、その明るい部分が別の山に隠れて見えなくなったのですが、カーブを抜けた途端、友人も私も、思わず大きな声をあげました。

 

すぐ近くの山の頂上から、巨大な月が突然現れたのです。月や太陽は、上空よりも、水平線や山などのすぐ近くに位置している時の方が大きく見えるのですが、その時見た月は、丁度昇り始めたところだったようで、あんなに大きな月を見たのは、後にも先にもそれが初めてでした。

 

友人と私は車を道端に停めて、しばらく口をぽかんとあけたまま、月に魅入ってしまいました。何だかSFに出てくる別の惑星にいるような錯覚にすら陥っていたのですが、山道の下のほうから、バイクがポンポンポンという音をたてて近づいてくるのが聞こえて、ようやく我にかえりました。バイクは地元の人らしい青年が運転しており、彼は何の感動もなく我々の脇を追い抜いてカーブに消え、ポンポンポンという音も遠ざかっていきます。その晩は宿のあても全然なかったのを思い出し、慌てて車のエンジンをかけたのですが、オートバイの青年を見かけたことで、近くに村があるのだろうという安心感はありました。

 

案の定、峠を越えるとちょっとした村があって、村の入り口の少し前には、レストランがありました。取り敢えず腹ごしらえをしようとそこに入ると、愛想の良い太った主人が白いエプロンをつけて出てきます。何が食べられるか聞いたら、今はアスパラガスが旬ですから、アスパラガスのスープはどうですか、といいます。何でも、今日畑から採ったばかりのものがあるとのこと。それだけでは足りないので、ジャガイモのオムレツも注文しました。私たちの他に客はなく、主人はやけに愛想がよく、テーブルには赤と白のチェックのテーブルクロスがかかっていて、私は宮沢賢治の「注文の多い料理店」の話を思い出してしまったのですが、出てきたスープはとてもおいしかったのを覚えています。緑の濃いホクホクしたアスパラがたっぷり、ゆで卵のスライスしたのと、ほぐした鶏肉と一緒に、油の浮いたスープに入っていました。

 

店の主人に、この辺に宿はないかと聞くと、村の反対側の出口の先に一軒あると教えてくれました。目指す宿に着く頃には、月はすっかり昇って少し小さくなっていたのですが、照明が殆どないので、とても輝いて見えました。駐車場では、その宿のレストランで食事を終えたらしい若者のグループが、ガヤガヤとタバコを吸いながら騒いでいて、ライオンのようにたっぷりした金髪の女の子が、女王のようにホッホッホと笑っています。私は、山奥から聞こえる犬の遠吠えを聞きながら、空いている部屋はあるか聞きに行った友人を車の中で待っていたのですが、ふと満月を見上げ、あれは犬じゃなくて狼なんじゃないかしらと思ったものです。

 

それ以降、満月を見るたびになぜかこの晩のことを思い出してしまいます。

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